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番外編

研究レビューの書き方「超」序論

担当:佐々木嘉則

Last updated on 2008/06/16
(Y/M/D). 

(このページへのリンクは御遠慮ください)


論文の基本構成

この他、

があると読者は非常に便利です。これは論文自体の構成要素ではないので、メールでファイルを送る際にメール本文に張り付けてもよいでしょう。

目次を論文本体に組み込む場合は、「要旨」の直前(あるいは直後)に「目次」をおくとわかりやすくなります。目次から本文にハイパーリンクをはっておけばさらに親切です。

いずれにせよ、草稿段階での「目次」は次のようにインデント(頭下げ)を活用し、論文の全体構造を視覚的に明示してください。また、各節・項目において主にとりあげる文献と提示する図表も明記してください。

1. はじめに .... 《長友(1988)》
2. 競合モデルの概要と研究方法
 2-1. 手がかりの連携と競合.... 《田原(19xx)、McDonald (1987)》
 2-2. 研究方法...
  2-2-1. 実験的研究....《MacWhiney & Bates (1989)、Gass (1987)》、 表1
  2-2-2. シミュレーション...《McDonald & MacWhinney (1989)》、表2、図1
3. ...
4. ...

レビューの目的

0. 卒論や修論/博論研究をはじめるにあたっての準備作業の場合:
これまでにどういった研究がなされてきたのか、漫然と論文を読むだけでなく自分のことばで表現することにより知識を整理する。ゼミ等で一緒に論文を検討する仲間にも共通する知識を与え、その後の議論の基盤とする。

この段階では、自分自身が「何がわかっていないか」に気づくだけでもレビューに取り組む価値があると思う。読んだ時はわかったつもりでいた文献でもいざ自分のことばでまとめようとすると肝腎のところが理解できていないことに、嫌でも気づかされることがよくある。その気づきが、より深い読みを促す。この業界で「目利き」になるための第一歩である。

1. 研究報告の「先行研究」の章の場合:
自分の研究を過去の研究の流れの中に位置づけ、「なぜこの研究課題が重要か」を読者に納得させる。

2. 独立したレビュー論文/紹介記事の場合:
分野の動向を整理紹介し、あるいは独自の視点や問題の再整理を提起する、未解決の問題への回答あるいは解決策を提案する。

三者はスタイルや長さなどにおいてかなり異なるが、もちろん共通する要素も多い。修論準備ゼミで書いた0.を土台に1.を仕上げ、その後自身の研究の成果をとりいれて2.にまとめなおし雑誌等に発表できれば一石三鳥である。(それを博士論文の一章に使えれば、一石四鳥。)

「入門」と「紹介」と「報告」と「展望」と「論考」と「メタ分析」の違い

上で述べた「独立したレビュー論文/紹介記事」の目的対象をさらに検討してみよう。厳密な区別ではないが、大雑把に次の6つの類型に分けて考えるとわかりやすいと思う。(もちろん、一本の論文が複数の役割を果たすこともありうる。)自分の研究の準備作業として先行研究のまとめを書くなら、まずは以下の「動向報告」あるいは「展望論文」を著すつもりでことにあたるべきだろう。

何のためにレビューを書くのか?

森下雅子(2002)「相互行為研究の諸相」草稿より引用《無断再引用・転載禁止》

佐伯(1986:6-11)【『認知科学の方法』東京大学出版会】によると、どんな分野のどんな研究にもタテ糸とヨコ糸があるという。タテ糸というのは、それぞれの研究テーマに関する過去から未来へ向けての研究の歴史的流れである。しかしそれでは「おもしろさ」がない。そこでヨコ糸が必要となる。ヨコ糸とは、異なる分野での同じような考え方、理論、モデル、主張である。佐伯はもうひとつ、研究にはナナメ糸が必要だと述べている。ナナメ糸というのは、それぞれの時代のそれぞれの考え方に対する「批判」の流れである。すべての研究は「闘う相手」がいるはずだというのである。そして展望(レビュー)論文を書くというのは、執筆者自身が自分なりに闘士になって過去に遡り、もう一度ナナメ糸に対し闘いを挑むものでなければならないという。

佐伯は一つの分野で新しい考え方が生まれると、ほぼ同時に、他の分野でも同じような考え方が生まれているものだと述べているが、まさしく相互行為の研究においても同じ事がいえる。社会人類学の伝統により、対面的相互行為を初めて独立した領域として取り扱ったGoffman。そしてエスノメソドロジーの創始者であるGarfinkel。この二人は、1950年代後半から60年代の同じ時期、UCLAにおいて教鞭をとっていた。その講義を受けていたのが、当時大学院生で後に会話分析を創始、発展させたSacksやSchegloffである。相互行為研究のいくつかのアプローチの合流がこの出会いによって生じた。相互行為研究は、その後も文化人類学、社会学、言語学、心理学など多分野にわたっている。

本稿では、まず「Goffmanの相互行為研究」と「会話分析(エスノメソドロジー的相互行為分析)」について取り上げ、その手法の特徴や研究の流れ、他の手法との違いについて整理する。これがタテ糸とヨコ糸である。そしてナナメ糸として、それぞれのアプローチに対する批判について論じ、会話分析と「エスノグラフィー」との融合の可能性と「正統的周辺参加(LPP理論)」の援用を検討する。また、2つの理論に「異文化」という新たな視座を提供する「相互行為の社会言語学」についても紹介する。

なぜ筆者は相互行為研究を行なうのか。それは相互行為に「人間とは何であるか」が一番現れていると思うからである。また、何のために本稿があるのか。それは筆者自身のメタ理論を吟味するためである。メタ理論とは、研究者が世界を見て解釈する際に用いる、「人間とはこういうものだ」というような、かなり広い、一般的なトピックをつつみこむ仮説である。どういう見方、考え方が現時点で最も「妥当な」(広い範囲にわたる説得力をもち、尤もらしい解釈を提供し、反証的な吟味にたえうる)ものか(佐伯1986:15-16)。本稿で、自分なりの研究のパラダイムを検討したい。

(以下略)

途方に暮れている貴方に

@何についてレビューを書いたらいいか、途方に暮れている貴方(主にM1あるいは学部生)に。

Aどこからレビューを書き始めたらいいのか、途方に暮れている貴方に。

レビューの視点

 レビュー論文を書く上で、こういう視点から眺めるといろいろと見えてくるだろう、と思い付いたことをざっと書き出してみました。もちろんこれを全部とりい れないといけないというわけではありませんが、ネタに困っているならこういう 観点から考えてみることもできるでしょう。

観点
問いかけ
意義
  • この研究領域に、どのような実用的/理論的な意義があるのか?
  • 所与の研究論文のリサーチクエスチョンは究明する意義があるものか?
範囲
  • 今回のレビューの範囲は?(何を含め、何を除外したか?なぜか?)
歴史的位置づけ
  • この研究領域はどのようにはじまり、どのような経緯を経て今日に至っているか?
  • 自分自身の研究は、その中でどのように位置づけられるか?(なぜ自分のたてたリ サーチクエスチョンは重要なのか?) 
隣接領域
  • この研究領域にはどのような隣接領域があるか?
  • 両者はどう関係している/していないか?
動向
  • どのような分野に研究の主力が注がれてきたか?
  • 未開拓の分野は何か?
分類/枠組み
  • これまでに行なわれた研究は、どのように分類整理することができるか?(必要に 応じて図表で整理することも可)
内的妥当性
  • それぞれの研究論文の議論の進め方は妥当か?
  • 論旨に内部矛盾や飛躍はないか?著者と異なる解釈は可能か?
  • 方法はリサーチクエスチョンに照らして適切か?
  • 同じ著者が以前発表した論文と比較して、立場は変化していないか?
  • もし変化があるなら、その変化は正当なものか?
外的妥当性
  • 従来の知見に照らして、仮説の立て方や研究方法、論の進め方は妥当か?
比較可能性
  • 異なる研究間の結果/結論を比較することは可能か?(共通の指標は存在するか?)
  • 用語の定義は一貫しているか?
帰着点
  • これまでの研究から結論できることは何か?
  • まだわかっていないことは何か?
  • 研究結果の間に矛盾はないか?
解決策
  • 既存の諸研究間の矛盾対立は、どのようにすれば解決できるか?(新解釈、対決実 験など)
  • これまでの研究者が見逃していた論点はないか?
課題
  • 今後どのような研究が必要か?(これが自分自身の研究プロジェクトの意義を読者に納得させるものであれば、言うことなし。)
関連研究
  • 他分野の知見や方法論で、参考になるものはないか?
  • 両者はどう結びつくか?(類似点/相違点)
応用
  • これまでに得られた知見には、どのような応用が考えられるか?

Bそれでもレビューをどう組み立てたらいいのか、途方に暮れている貴方に。

(1)テーマとなるキーワードを真ん中にして、マインドマップを描いてみましょう。最初は何も資料を見ずに、頭に浮かんだことをどんどん書き込んでいきます。その後、文献などを通じて新しい知識やアイデアを得たらそれらを含めて描き加え、あるいは描き直します。そのうちにおのずと、当該分野のもつ知識構造が浮かび上がってきます。マインドマップをそのまま文章化したらいい論文になるとは限りませんが、こういう視覚化の経験を通じて少なくともあなたがその分野をみる「視点」ができあがってくることでしょう。

(2)比較的記述的なレビュー(当該分野でおこなわれている研究をひととおり概観するもの)の場合、次のような手順が考えられます。

まず、いろいろな基準によって先行研究の特徴を比較対照した以下のような表を作成します。(ワープロソフトでもいいのですがエクセルのような表計算ソフトを使うと後で並べ替えが簡単にできます。)

 
使用言語
対象年齢
Bush (2000)
英語
成人
Clinton (1992)
日本語
成人
Reagan (1880)
中国語
児童
Carter (1976)
英語
成人
Ford (1974)
日本語
児童
Nixon (1968)
英語
児童
Johnson (1963)
中国語
成人

 

次に、これらの研究を次のような表を使って分類整理します。(この表は見やすいように「使用言語」と「対象年齢」という2つの次元に沿った2次元構成にしてありますが、もっと次元を増やすことももちろん可能です。)

 
使用言語
英語
中国語
日本語
対象年齢 成人

Bush (2000)

Carter (1976)

Johnson (1963) Clinton (1992)
児童 Nixon (1968) Reagan (1880) Ford (1974)

さて、この図の横方向に沿って論述を進めれば

というような構成が考えられるし、縦方向に沿えば

という構成が可能になります(こういう並べ替えは、研究の比較対照表をエクセルで作っておくと簡単にできます)。こういうシミュレーションをしながら、どちらが書きやすいか、整合性のあるレビューを書くことができるかを検討することができるわけです。

文献リストの選定

最終的には全ての文献を丁寧に読まない限りレビューにまとめることができないのは言うまでもありませんが、企画案を練る段階ではそこまで手が回らないかもしれません。少なくともレビューの核となる基本文献・重要文献はあらかじめ読んでおくとともに、それ以外の文献も最低限abstract(要旨)には目を通して自分の執筆意図に合致していることを確認してから、文献リストに含めるかどうかを判断してください。

レビューの「企画説明」の書き方

まずは「企画説明」を書いてみましょう。(一部「要旨」と重複する部分もありますが、より詳しい説明を期待します。)書いているうちに頭の中が整理されてきます。

*** 企画説明の基本構造 ***

項目

骨組み

《執筆の意図》

私は〜を研究したいと思っています。そのため、〜先行研究をレビューします。〜を選んだ理由は、〜からです。このレビューを執筆することを通じて私は〜。

また、私はこのレビューを書くことによって〜。

私は修士論文では競合モデルにもとづき、日本語学習者の間接受け身文の処理(理解)過程実験的に研究したいと思っていますそのため、今年の後半は競合モデルを日本語習得(L1、L2双方を含む)に援用した先行研究をレビューします。競合モデルを研究の枠組みに選んだ理由は、「手がかりの強さ」という概念により第二言語習得における転移現象を言語処理研究の中で明確に位置づけている点が他の言語心理学理論にない強みであり、第二言語習得を認知的な立場から研究するのにもっとも適した枠組みだと判断するからです。このレビューを執筆することを通じて私は残された研究課題を洗い出し、博士論文で扱うべきリサーチクエスチョンを絞っていきます。

また、私はこのレビューを書くことを通じて、以下の領域において専門家としての識見を確立することを目指します。

@連合主義にもとづく言語習得理論の流れ

A実験心理言語学における文理解過程の研究方法

《想定する読者》 〜について知識を有するが、〜については詳しく知らない読者を想定しています。 第二言語習得研究の方法論について基礎的な知識を有するが、競合モデルについては詳しく知らない読者を想定しています。

《新奇性の説明
(既存レビュー文献
との対比)》

これまで既に〜が、それには〜という限界があります。〜はこのレビューがはじめてです。 これまで既にBates (19xx)が競合モデル研究のレビューを著していますがその範囲は主としてL1習得に限定されており、L2習得を扱ったMacWhinney (19xx)も日本語への援用が本格化する以前に執筆されたものであるため日本語に関する研究はわずかしか紹介されていません。田原(19xx)は日本語で著された競合モデル紹介として貴重な文献ですが、海外で行われた日本語習得研究に言及していないという限界があります。また、これまでのレビューのほとんどはL1あるいはL2のどちらかに限定されているため、L1日本語習得研究とL2日本語習得研究の知見を対比してそこから分野の全貌を伝え切るという試みはこのレビューがはじめてです
《切り口とその理由》 本稿では〜を、〜を切り口として整理し、〜を概観します。このような構成をとる理由は、〜からです。

本稿では競合モデルの理論的概要を説明したのち、先行研究でとりあげられた主要な論題を、「理論上の論題」「方法論上の論題」という分類を切り口として整理し、それぞれに対してどのような知見が得られているかを概観します。(その中で、Gibsonによる競合モデル批判とそれにたいするMacWhinneyらの反論も紹介します。)このような構成をとる理由は、競合モデル研究は仮説演繹法的なアプローチをとることが多いため、その論題に沿って研究の流れを跡づけることが不可欠だと考えるからです

《図表》 〜のような表を付することによって〜を目指します。

次のような表で過去の競合モデル研究のデザインと結果を整理することによって、英語を目標言語とした研究が多いなど全体的な傾向を示すことを目指します

研究者名
第一言語
目標言語
手がかりの強度

【例】Harrington

(1987)

日本語
英語
有生性>語順
《対象文献の
探し方》

(1)〜。

(2)〜。

(3)〜。

(1)Social Science Citation Indexにより、MacWhinney & Bates (1989)を引用した文献を網羅的に検索し、その中で日本語習得を扱ったものを拾い集めます。

(2)"Japanese", "competition model"をキーワードにGoogle Scholar、LLBA、PsychoInfoおよびEBSCO-HOSTを検索します。

(3)Ruth Kanagy、Shirai吉岡薫Hatasaの日本語習得文献リストから関連のあるものを拾い出します。

(4)MacWhinneyのホームページで当該分野の最新文献をチェックします。

(5)伊藤・田原・朴(1993)の参照文献リストをもとに関連文献をリストアップします。

(6)GeNiiの学術コンテンツポータルにより、「文理解」「処理方略」をキーワードにして関連論文を検索します。

(7)日本Amazon社および米国Amazon社のデータベースより「文理解」、"sentence comprehension"が書名に含まれる書籍を検索します。

(8)研究開発支援総合ディレクトリにより、文処理研究を専門とする研究者を検索し、それぞれの研究者のエントリーにある「研究業績」から関連文献を抽出します。

(9)博士論文書誌データベースにより、「文理解」「処理方略」をキーワードにして関連論文を検索します。

(10)Journal of Memory and LanguageApplied PsycholinguisticsLanguage Learning『第二言語としての日本語の習得研究』の既刊号の目次を網羅的に調べ、関連文献を探します。

《執筆にあたっての
困難点と対策》
〜という問題があります。対策として、〜を考えています。

競合モデル研究では一つの研究がいくつかの論題に答えを出そうとする場合が多いので、上に述べたような論題別の構成をとると同じ研究があちこちで言及されることになり、読者を混乱させかねないという問題がありますその対策として、既存研究を年代順に並べた一覧表を付して整理することによりこの問題を回避することを考えています

 

レビューの「要旨」の書き方

「要旨」の必要要素

目標/目的―範囲―分析枠組み―意義/結論

雛形の一例(このモデルにしたがって書きはじめ、必要に応じて加筆/省略するとよい。)

本稿は、〜を目標とし、〜を目的とする。そのために〜をレビューする。分析の範囲は、〜に限定する。分析の枠組みとして〜を用い、〜をレビューすることで、〜を指摘する。【そのため、まず第一章では…を概観する。続いて第二章では…を紹介する。第三章では…を対比する。第四章では…を論ずる。…最後に第X章では…。】

【〜】の部分は実際にレビューを公表する際には必ずしも必須ではないが、これを書こうとすることにより全体の構成と各部分間の相互関係をしっかり考えざるをえなくなる。したがって骨組みのしっかりしたレビューを仕上げるためには、この部分も執筆段階で書いてみることをお勧めする。

お手本

http://jsl2.li.ocha.ac.jp/genbun/saizensen2002/index.html#OZ

「分析枠組み」とは

特定の理論や研究方法論に則って先行研究を整理するなら、その論文構成の骨格が何であったかを読者に知らせる必要があります。

比較的記述的なレビューの場合、明示的な理論枠組みは存在しないケースもありえますが、それでも複数の研究を紹介するからには何らかの分類・配列基準にしたがったはずです。(時系列順・対象者の母語別、研究が行なわれた国/地域別など。)そういう場合、上記の例の

分析の枠組みとして〜を用い

の替わりに、

〜、〜、〜の3つの観点から〜研究全般を概観する
 あるいは 
先行研究を横断研究と縦断研究の手法別に整理する

などという書き方をしてもよいでしょう。

「要旨」をいつ書くか

オリジナルな研究報告なら論文が仕上がってから最後に要旨を書くのが通例ですが、レビューの場合は執筆計画をたてる段階で「要旨」と「目次」を試しに書いてみることをお勧めします。それにより、レビューの範囲や枠組みなどの必要要素を自覚することができ、全体の見通しがたつからです。(書き上げてから「はて、このレビューの枠組みは何だったのだろう?」などと考えていたのでは洒落になりません。)

レビュー企画評価の基準

評価基準
<--------------------->
動機(目的)
納得
5〜1
不可解
視点(切り口・枠組み)
おもしろい
5〜1
つまらない
構成(章立て)
整然
5〜1
支離滅裂
分析の範囲
明快
5〜1
曖昧
参照文献の選択
適切
5〜1
偏っている

 

レビュー論文評価の基準(上に加えて)

評価基準
<--------------------->
論文としての様式体裁
きっちり
5〜1
めちゃくちゃ
前提知識の解説
充分
5〜1
不充分
周辺他領域との関連づけ
充分
5〜1
不充分
個々の文献の説明
わかりやすい
5〜1
わかりにくい
文献間の関連づけ
わかりやすい
5〜1
わかりにくい
文章表現
上手
5〜1
下手
全体の流れ
スムーズ
5〜1
ぎくしゃく
著者のオリジナルな総括
充分
5〜1
不充分
論議の説得力
充分
5〜1
不充分

 

それでもレビューの書き方がわからないという貴方へ

(1)総括の枠組みをどうやって決めるか

上の「評価基準」には12の領域が挙げられていますが、さらに単純化すれば、レビュー執筆の手順は

1) レビューする分野と範囲を決める

2) レビューすべき文献を探す

3) レビューの骨組み/枠組みを決める(年代別;研究者別;研究対象別;研究方法別;論点別…)

4) 個々の論文の紹介や論考を書く

という4段階になると思います。(ただし、必ずしもこの順番で継時的に作業が進むとは限らず、レビューの枠組みを考えている間に範囲に変更が生じたりする場合もあります。)

ここで、3)における「論点別」のレビューの見本(あるいはお手本)としては、次を参照してください。

田中共子 (1998) 「在日留学生の異文化適応:ソーシャル・サポート・ネットワーク研究の視点から」『教育心理学年報』37, 143-152.

田中は自らの主要研究テーマの必要性と重要性を読者に認識させることを最終目的に、そこに至る論理的過程を追って論点別に、いわば戦略的にレビューを組み立てています。これが成功すれば啓蒙効果は最大となりますが、そのためには格別の専門知識と構成力・筆力が必要です。(修士課程在学中あるいはD1のみなさんにはこの水準までは課題として要求しませんが、もしチャレンジしてみたいというのであれば止めはしません。)

それにくらべれば、研究者・学派別、問題領域別(単音/イントネーション/ストレスなど)、研究対象者の類型別(母語、年齢など)、研究方法別(実験か調査か、横断か縦断か、など)といった基準で先行研究を配列し順次解説する方が大きな破綻が回避でき、いわば「安全策」といえます。また、現存する先行研究をひととおり網羅しようとすれば、こういった比較的「記述的」な枠組みにもとづく構成の方が概して洩れが防ぎやすいものです。(考えうるすべての枠組みに基づきそれぞれ徹底したレビューを行なうことは、通常「論文」とよばれる長さの文献では無理で、多くの場合一冊(あるいは複数)の「書物」を要します。)

当然のことですが、枠組みを選んだらそれを一貫させてください。

「第1節 日本語に関する研究」

「第2節 児童を対象とした研究」

「第3節 実験的研究」

というように視点そのものがころころとずれてしまような草稿だけは見たくない!(冒頭に述べたとおり、インデント(頭下げ)を活用して論文の全体構造を視覚的に明示しておくとこういう骨組み作りの失敗をかなり防ぐことができます。)

(2)いつ、どんな切り口でレビューを書くか?

博士後期課程の院生の場合、通常は

1) D1の時に特定の研究分野の概観(例:「ら抜きことば概観」「電話会話開始部に関する研究概観」)を書く
2) D2,D3の時に理論(例:「日本社会の多言語他文化化は教育心理学研究においてどのように位置づけられるべきか?」「NPAH (Noun Phrase Accessibility Hyerarchy)の言語心理学的説明試論」)あるいは方法論(例:「漢字学習研究における実験心理学的手法の意義と問題点」)に関する論考を書く

ことをお勧めしています。大学院在学中に対象・理論・方法論の3面にわたって専門的知識を身につける必要がありますが、その中では「対象」に的をあわせた総括の方が「理論」や「方法論」に基づく論考よりは書きはじめやすいだろうという趣旨からです。いずれにせよ、大学院在学期間を通じて自分の研究テーマをめぐり二つ以上の異なる切り口のレビューを書いてみることで、より多角的な見方が可能になります。こういった幅の広がりは、将来就職活動をする際にも有利です。

以上を大学院生時代にこなしたうえで、

3) 博士号取得後、自分自身の博士論文研究を含めた総説を書く

ことができれば専門家としての地歩を着実に固めることができるでしょう。

(3)要するに何がわかったのか/わかっていないのか?

いろいろな研究を丁寧に紹介しているけれど結局その分野で何が明らかになっておりどのような問題が残されているのかがわからない、という草稿がよくあります。料理にたとえれば、白菜や鶏肉やこんにゃくの味はするけれど鍋料理全体としての味がわからないようなものです。レビューを書いたら各節ごとにたちどまり、「要するに何がわかったのか/わかっていないのか?」自問自答してください。それが読者に明確に伝わらないようなら、書き方を考え直す必要があります。

図表の構成

総括論文の図表には少なくとも二つの重要な目的があります。

(1)本文中では述べきれなかった情報を網羅的に提示する。(特に表の場合)

(2)本文の論点が明確に伝わるよう視覚化したり(図)対比・比較したり(主に表)する。

このうち(1)の網羅的情報提示のための表は必ずしも本文中に挿入する必要はなく、むしろ「附録」あるいは「稿末資料」として本文の後に付した方がバランスがよい場合もあります(特に長大な表の場合)。

これに対し、(2)の論点の明確化のための図表は、当然本文中に挿入しなければなりません。図表の構成もその文脈と目的に照らして最適化することが必要です。たとえば英語母語話者と中国語母語話者で習得過程に差違があることを示したいのであれば、両者の対比が一目瞭然になるように表を作るべきです。一方、強調したいのが横断的研究と縦断的研究の結果の違いであるならば、その対比を強調しなければなりません。図や表にはそれぞれメッセージを込めることを心がけてその構成を工夫してください。

いずれにせよ「すっきり見やすい」図表を作るよう心がけてください。本文と同じような調子でだらだらと文を連ねるのでは図表化する意味がありません。

キーワードの選び方

キーワードというものはどうやって選べばいいか、実は最近まで私もよくわかりませ んでした。 最近になってある人に教えてもらったところでは、これはコンピューター上の文献デ ーベースで検索する時のためのものなので、少なくとも次のような要因を考えて選ば ないといけないそうです。

1) 論文の内容を正しく反映している

2) 「こういう読者に読んでほしい」という人の目にふれる (そういう読者が 検索に使いそうなキーワードは何か?)

3) 頻繁に検索してもらえる(自分の論文がヒットする)

このうちまず大切なのは1)ですが、その基準を満たすキーワード候補の中からどれ を選ぶかを決める段階では2)、次いで3)も考慮に入れることがあります。たとえ ば「パラグラフ」と「段落」のどちらか一方しかキーワードに入れられない場合、想 定する読者が国語学者か英語教育者か、などの要因も考慮に入れられるかもしれませ ん。

個々の雑誌がそれぞれ前提とする研究対象や枠組みを考慮する必要があります。国内雑誌、特に日本語教育学や国語学の雑誌に投稿するなら、「日本語」というキーワードは不要かもしれません。(ただし、外国語で論文を書くのであれば、研究対象言語をはっきりさせるために Japaneseをキーワードに入れることに積極的な意味がある。)

なお、論文の題名に含まれている語句であれば標題からサーチした時にヒットするの で、そこに含まれない語句をキーワードにした方が、想定する読者に 注目してもらえる確率がトータルでみて高くなるそうです。

書誌情報等の書き方

日本では英語圏ほど完備された執筆要領ができあがっていません。既にどの雑誌に投稿するか決まっている場合は、それぞれの雑誌の慣行にしたがうのが鉄則です。そうでない場合、次の試案が御参考になるかもしれません。

執筆要領試案

参考文献

酒井聡樹著(2002)『これから論文を書く若者のために』(共立出版)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4320005643/ref=pd_bxgy_text_1/250-5249049-8309801

酒井聡樹「若手研究者のお経」

http://hostgk3.biology.tohoku.ac.jp/sakai/ronbun/ronbun.html

 

以上で述べたことを見本の形でまとめてみましょう。

企画書見本(あくまで例示なので、文中で言及されている文献や研究者は必ずしも実在のものではありません。)

文献レビュー企画書

「競合モデルにもとづく日本語文理解研究の諸論点」(仮題目)

日本語教育コースM1

御茶華子

企画説明

《執筆の意図》

私は修士論文では競合モデルにもとづき、日本語学習者の間接受け身文の処理(理解)過程を実験的に研究したいと思っています。そのため、今年の後半は競合モデルを日本語習得(L1、L2双方を含む)に援用した先行研究をレビューします。競合モデルを研究の枠組みに選んだ理由は、「手がかりの強さ」という概念により第二言語習得における転移現象を言語処理研究の中で明確に位置づけている点が他の言語心理学理論にない強みであり、第二言語習得を認知的な立場から研究するのにもっとも適した枠組みだと判断するからです。このレビューを執筆することを通じて私は残された研究課題を洗い出し、博士論文で扱うべきリサーチクエスチョンを絞っていきます。

た、私はこのレビューを書くことを通じて、以下の領域において専門家としての識見を確立することを目指します。

@連合主義にもとづく言語習得理論の流れ

A実験心理言語学における文理解過程の研究方法

《想定する読者》

第二言語習得研究の方法論について基礎的な知識を有するが、実験言語心理学や競合モデルについては詳しく知らない読者を想定しています。

《新奇性の説明(既存のレビュー文献との対比)》

これまで既にBates (19xx)が競合モデル研究のレビューを著していますがその範囲は主としてL1習得に限定されており、L2習得を扱ったMacWhinney (19xx)も日本語への援用が本格化する以前に執筆されたものであるため日本語に関する研究はわずかしか紹介されていません。田原(19xx)は日本語で著された競合モデル紹介として貴重な文献ですが、海外で行われた日本語習得研究に言及していないという限界があります。また、これまでのレビューのほとんどはL1あるいはL2のどちらかに限定されているため、L1日本語習得研究とL2日本語習得研究の知見を対比してそこから分野の全貌を伝え切るという試みはこのレビューがはじめてです。

《切り口とその理由》

本稿では競合モデルの理論的概要を説明したのち、先行研究でとりあげられた主要な論題を、「理論上の論題」「方法論上の論題」という分類を切り口として整理し、それぞれに対してどのような知見が得られているかを概観します。(その中で、Gibsonによる競合モデル批判とそれにたいするMacWhinneyらの反論も紹介します。)このような構成をとる理由は、競合モデル研究は仮説演繹法的なアプローチをとることが多いため、その論題に沿って研究の流れを跡づけることが不可欠だと考えるからです。

《図表》

次のような表で過去の競合モデル研究のデザインと結果を整理することによって、英語を目標言語とした研究が多いなど全体的な傾向を示すことを目指します。

表1. L2競合モデル研究における手がかり強度順位

研究者名
第一言語
目標言語
手がかりの強度

【例】Harrington
(1987)

日本語
英語
有生性>語順

《対象文献の探し方》

(1)Social Science Citation Indexにより、MacWhinney & Bates (1989)を引用した文献を網羅的に検索し、その中で日本語習得を扱ったものを拾い集めます。

(2)"Japanese", "competition model"をキーワードにGoogle Scholar、LLBA、PsychoInfoおよびEBSCO-HOSTを検索します。

(3)Ruth Kanagy、Shirai吉岡薫Hatasaの日本語習得文献リストから関連のあるものを拾い出します。

(4)MacWhinneyのホームページで当該分野の最新文献をチェックします。

(5)伊藤・田原・朴(1993)の参照文献リストをもとに関連文献をリストアップします。

(6)GeNiiの学術コンテンツポータルにより、「文理解」「処理方略」をキーワードにして関連論文を検索します。

(7)日本Amazon社および米国Amazon社のデータベースより「文理解」、"sentence comprehension"が書名に含まれる書籍を検索します。

(8)研究開発支援総合ディレクトリにより、文処理研究を専門とする研究者を検索し、それぞれの研究者のエントリーにある「研究業績」から関連文献を抽出します。

(9)博士論文書誌データベースにより、「文理解」「処理方略」をキーワードにして関連論文を検索します。

(10)Journal of Memory and LanguageApplied PsycholinguisticsLanguage Learning『第二言語としての日本語の習得研究』の既刊号の目次を網羅的に調べ、関連文献を探します。

《執筆にあたっての困難点と対策》

  1. 競合モデル自体の理論枠組み説明をどの程度くわしくするか?(できれば日本語に関する研究に紙幅を割きたいが、理論枠組みの説明がないと門外漢には理解が難しいだろう。)
  2. 競合モデル研究では一つの研究がいくつかの論題に答えを出そうとする場合が多いので、上に述べたような論題別の構成をとると同じ研究があちこちで言及されることになり、読者を混乱させかねないという問題があります。その対策として、既存研究を年代順に並べた一覧表を付して整理することによりこの問題を回避することを考えています。

要旨(仮)

本稿は、〜を目標とし、〜を目的とする。そのために〜をレビューする。分析の範囲は、〜に限定する。分析の枠組みとして〜を用い、〜をレビューすることで、〜を指摘する。【そのため、まず第一章では…を概観する。続いて第二章では…を紹介する。第三章では…を対比する。第四章では…を論ずる。…最後に第X章では…。】

目次と図表および主な参照文献(仮)

1. はじめに .... 《長友(1988)》
2. 競合モデルの概要と研究方法
 2-1. 手がかりの連携と競合.... 《田原(19xx)、McDonald (1987)》
 2-2. 研究方法...
  2-2-1. 実験的研究....《MacWhiney & Bates (1989)、Gass (1987)》、 表1
  2-2-2. シミュレーション...《McDonald & MacWhinney (1989)》、表2、図1
3. 主要な論題と知見
 3-1. 理論上の論題
  3-1-1. 手がかり妥当性仮説の検証
  3-1-2. ...
   ...
 3-2. 方法論上の論題
4. ...

参照文献リスト(仮)

欧文文献

【未読】【要旨のみ既読】Gass, S. (1979) Language transfer and universal grammatical relations, Language Learning, 29, 327-344.

和文文献

【未入手】坂本正・窪田彩子(2000)「日本語の関係節の習得について」『南山大学国際教育センター紀要』1, 114-126.

【既読】長友和彦 (1998) 「第二言語としての日本語の習得研究」橋口英俊・稲垣佳代子編『児童心理学の進歩 1998年度版』日本児童研究所 79-110.

企画案に対する自己採点(自信度)

評価基準
<--------------------->
動機(目的)
納得

 4 3 2 1

不可解
視点(切り口・枠組み)
おもしろい
5  3 2 1
つまらない
構成(章立て)
整然
5 4  2 1
支離滅裂
分析の範囲
明快
5 4  2 1
曖昧
参照文献の選択
適切
5 4 3  1
偏っている

蛇足:若者よ、レビューに挑め

日本の人文科学の世界では「レビューは既に名声を確立した大先生が書くもの」という先入観が何となくあるようですが、私は大学院生(あるいは、条件が整えば学部生も)の時にこそ全力でレビュー執筆に取り組んでみるべきだと思っています。その理由を次に挙げます。

 


 

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